旅の宿
天野茂典

  


  ぼくはあなたと
  落ち葉をひろいに
  坂を上った
  あなたは若い作業療法士
  そうしてぼくは
  モン・ベルのTシャツとジーパン姿の
  ピーターパン
  猿がでる病院の裏山は
  すすきの簪
      光る
        光る
          光る
  あなたにさしてあげたいすすきのカンザシ
  吉田拓郎 旅の宿
         ではないけれど
         こころおきなく膝枕
         あなたにもたれて
                 眺めていたい
  桜がいいのよ
  
                 もえる簪 
  桜の木の下で
                 もえる簪
  そうよ 山桜
                 もえる簪
         あなたにもたれて 
         あなたの髪を
         成層圏の幕のように
         さすってみたい
         うもれてみたい
         やわらかな雲だ
                 宝石箱をひっくりかえしたような青空
                 マイルドな茶髪の上の
                 青い簪
                 しんしんと秋
                 あなたの唇
                 ナチュラル・メイク
   消防車のサイレンはならないけれど
   あなたの腕には落ち葉ひろいの小さな網籠
   いっぱいにしてコラージュするのだ

   あなたはかつてバイロンがたたえたように美しい
   あなたはかつてアンドレ・ブルトンが抱いたように可愛い


   太郎を眠らせ 太郎のうえに雪ふりつむ
   次郎を眠らせ 次郎のうえに雪ふりつむ*

 桜の木の下で
 あなたが言ったようにたくさんの落ち葉がちらばっていた

 そうしていつしか
 青空からは白い雪がふりはじめ あなたもぼくも霧氷のようにかたまった
 もうふたりの会話も眠ったままだ 
                パラダイムの変換




  解凍ソフトは愛 
                      そうあなたのいのち
                         そっと息をふきかけて

            あなたととふたりぽかぽか
            落ち葉にかこまれた
 
                愛せよあなた!
                光る

                 光る

                   光る


  
   *三好達治の詩句              2004・10・2


自由詩 旅の宿 Copyright 天野茂典 2004-10-02 19:17:46
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