君はどこから何を引っ張ってきたのか
真島正人



君はどこから

何を引っ張ってきたのか

そんな
顔をして

僕には

読み取れない

君の
やせた歯茎が

うれしいのか悲しいのかどうか

ま、
とりあえず

珈琲でもどうぞ

最近は
だんだん手馴れてきました

温度と
濃度が
大切なんです……

ん、
寝起きでもないのに

頭がぼんやりとして

口が上手く開かない

繋がっているのは
体の隅から隅まで

一本の糸で

複数の糸で
結ばれている

君は

どこから

何を

引っ張ってきたのか

君は
どこから

何を引っ張ってきたのか

君の体から
すぅっと伸びている

細長い糸

君が引っ張って歩いているそれを

長い間僕は
電話線だと思っていたよ



連絡網?
線路?
いろんなクイズ
なかなか
当たらないよね



本を読んでいたら
かわいそうな

動物の記述があった
動物を育てている女の子の

お話なんだけど
動物が

かわいそうで
かわいそうで、

とあるハムスターのお話なんだけど

痩せていると思ったら
肛門から何かを

引きずっていて

それが
細長い糸
みたいなんだけど

血がついていて
実は腸だったんだって

ザラにあるんだって、
そういうこと

そのハムスターは
すぐに死んだってさ
もう

今夜
音楽は
名無しの音楽
本当に
作者不明の
途切れた音像

僕の先生は
武満徹が好きでしたが
僕は
何もたいして好きじゃありません……

いや
本当に
本当に



全自動
炊飯器の中で

米が膨らんでいる

僕の体の中で

酵素が膨らんでいる

洗濯機の中で

めまいを起こしそうなのは

昨日買ったばかりの安いシャツ

だらしのない食べ方をしているせいで

牡蠣のフライを
落として

汚してしまった

今日は雨かな

昨日は雨だったっけ?

昨々日は雨でした

記憶はあいまい

二日前の
天気を覚えているのに

昨日のことが
思い出せない

僕は鳩の姿が見たくなって

窓を開けたら

春めいた空気が入ってきた

ぞくっとして

唾を

一気に

飲み込んで
しまった



君が引っ張ってきたもの

見ると

君が

それを引きずっているように見える

お話の中の
女の子が

飼っていた
ハムスターが

引きずっていたもの

ただの

腸だ

僕はその二つが

違うようで

おんなじに見える

でもやっぱり

違うようにも思える

君が引っ張って
いるものはよくわからないもの

ハムスターのそれは
具体的に

体の一部

君が
何かを引っ張ると

少しだけそれが動き

ハムスターが
腸を引っ張ると

やっぱり

少しだけ腸が動く

そこにそれがあると

安心する

でも

それはもう

はみだしてしまっている



君が引っ張って
いたものが

長く美しくて

途切れないから

僕はそれに息を吹きかけて

湿らせてやった

君はうんとも

すんともいわずに

扉を開けて向こうに

行った

向こうからちょいちょいと

指を動かして

お茶目に

それを動かすのは君だね

僕は笑顔になった

君の余裕と冗談が

僕を笑わせ

それで僕は

安心したよ


自由詩 君はどこから何を引っ張ってきたのか Copyright 真島正人 2010-03-21 04:31:25
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