水槽
小川 葉

 
 
透明な水槽に
きれいな水を満たしていく
やがて現れる一匹の魚を
妻と二人で待っている

数億と言われる精子は
あらかじめ神様が予想した
人の数かもしれない

水槽の向こうから
時々声が聞こえるから
毎日は無理だけど
なるべくこまめに水を変える

何もない
ただの水でよかったのに
僕らはなぜ新しい命を
待ってしまうのだろう

誕生の瞬間を見て
涙が出てしまうのはきっと
幸福だからだけではなく
生きることが
残酷であることを
僕らが知っているからだ

きっと僕らは死ぬ
君がひとり残される
だから君もいつか
おなじことを思う日がくる

水槽の水が揺れた
生まれたいのだ
 
 


自由詩 水槽 Copyright 小川 葉 2010-03-21 01:43:41
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