水槽
小川 葉
透明な水槽に
きれいな水を満たしていく
やがて現れる一匹の魚を
妻と二人で待っている
数億と言われる精子は
あらかじめ神様が予想した
人の数かもしれない
水槽の向こうから
時々声が聞こえるから
毎日は無理だけど
なるべくこまめに水を変える
何もない
ただの水でよかったのに
僕らはなぜ新しい命を
待ってしまうのだろう
誕生の瞬間を見て
涙が出てしまうのはきっと
幸福だからだけではなく
生きることが
残酷であることを
僕らが知っているからだ
きっと僕らは死ぬ
君がひとり残される
だから君もいつか
おなじことを思う日がくる
水槽の水が揺れた
生まれたいのだ