道は急速に右へとカーブし
オイタル

道は急速に右へとカーブし
街灯が
粉雪に色を試しているそのあたりで
ぼくは黒い髪の女の子に
恋をした

彼女は腕を垂らして
かばんを提げていた
髪をかきあげて
左目 右目と順々に
目じりのしわを増やしていった

朽ちていくビルの隣で
トビが声高く空を巡り
夜の川の青銅の淵に
星が一つすべり落ちる

曲がりくねって空まで続く道の入り口で
ぼくは彼女とすれ違い
連結の軋む帰りの電車の入り口で
ぼくは彼女を裏切り
雲を一つ二つ庇の陰から空へ流しながら
彼女はぼくから去っていった

寒い廊下で
ぼくは彼女に会釈し
長い銀行の受付で
彼女はぼくに会釈し
無数の目が見つめる広場の隅で
ぼくと彼女は黙ったまま

幾千の花びらが次々
身を闇へ沈めていく
四人の子供が
平らな石の上に つめ草を飾る

そうしてぼくの恋した彼女は
髪を短く切りそろえ
男の子を一人生んで
ぼくの見知らぬ文字を
その名に刻んだ

道がもう一度右にカーブし
灯が
オレンジに粉雪を砕くそのあたり
ぼくは老いて
髪の黒い女の子に再びめぐり合い
そして深々とお辞儀をする
深々と


自由詩 道は急速に右へとカーブし Copyright オイタル 2010-03-19 00:08:26
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