蛇つかいになる
吉岡ペペロ

工場長が腕組みをほどいた
ああ、工場長が行ってしまう、
ユキオは顔をあげた
ユキオの唇がかたくなった
工場長が胸ポケットからケイタイを取り出した

あのなあ、頼まれてくれないかな、今から割り込みさせてくれよ、急ぎで吹いて欲しいんだ、図面ファックスするから、ああ、よし、頼むよ、

いったん電話をきってまた電話をかけはじめる工場長のとなりで営業部長が首をまわした
電話をしながら工程表に修正を入れてゆく工場長をじっとユキオは見つめていた

工場長がケイタイを図面のうえに置いた
おまえからもあとで工場に電話しといてくれるか、そう営業部長に言ってからユキオを見やった
今からノーミスで4月の28だ、協力工場3社でポンプ7台ぶんの鋳物を特急で吹いてもらう、それをブラストする、うちで加工して組み立てる、あと検査だな、すべてノーミスなら連休前に間に合うかも知れない、でも約束は出来ないからな、

ありがとうございます、ありがとうございます、

協力工場からうちの工場への移動はチャーター便を使うから、その分チャージを頂くことになるけどいいね、

もちろんです、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます、すみません、ほんとうに申し訳ないです、すみません、ユキオはお礼を言っているのか謝っているのかが分からなくなっていた
誰にお礼を言っているのか誰に謝っているのかもユキオには分からなくなっていた
ただひとつ分かっていたことがあった
じぶんが蛇つかいになってしまったような気がしてそれが嬉しくてお礼を言いそれが申し訳なくて謝っていた







自由詩 蛇つかいになる Copyright 吉岡ペペロ 2010-03-18 15:38:23
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