メソポタミアの遺丘
楽恵

くらやみのひかれた丘の上で
私は黙想している
近くに大きな河がある
冷たい風の向こうがわ
乳のように深くて豊かな河が
夜に寄り添うように
よこたわっている

河は今、水かさを増している
まもなくこの丘を取り囲むように
岸辺に溢れ
多くをさらっていくだろう
村や家畜や麦畑を
害をもたらす虫や
燃え続ける森
最後まで手なずけられなかった野獣と
星と月さえ
跡には何も残らないはずだ
私自身も含めて
ひとにぎりさえ

それでも洪水のあとには
今より黒く肥沃な大地が
広がる
約束されている

始原の夜が明けるまでを私は待っている

春の女神が牧畜と農耕の願いを
数千年かけて叶えたように
黙想が祈りにかわるのを
人類が目覚め
文明が萌芽した
メソポタミアの丘の上で


自由詩 メソポタミアの遺丘 Copyright 楽恵 2010-03-17 23:35:34
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