『入水』
東雲 李葉

「風が少し冷たいね」と笑いかけると
まだ早かったんだとふてくされた声
まあまあ、って君のポケットに忍び込む
合わせなくても同じ歩調と
規則正しい腕時計
まだ寝なくても良いの?と、
いたずらに笑う

寄せては返すとまどいもときめきも
浄化されゆく水のなか
細いきずなで繋がっていた
あの頃に還るみたいに

裸足になって子どもみたいに
「こっちへおいで」と呼んでみる
形の無い子猫が素足をくすぐり
今度は君から指を絡めて
捲った裾が濡れる深さで僕らは何度もキスをした

果てなく暗い海だけが
二人のゆくえを知っている
波は静かにささやいて
足跡をひそかに持ち去った


自由詩 『入水』 Copyright 東雲 李葉 2010-03-12 20:29:37
notebook Home 戻る