地下水脈のさかな
フミタケ

科学者風の初老の男に案内され僕は

たわいない冗談もいいながら気軽に

バイオハザードのそれかと思うくらい

深い地下まで降りて行く。

科学者風が見せてくれたのは

マグロ大の深海魚のような魚。

彼は目の前でそれを頭と尻尾、

真っ二つに引きちぎり

足下にある地下水の川へ投げ込む

冬の雨に濡れるアスファルトのような色をした

その水の中で2つに裂かれた魚はそれぞれ

沈まず流れに乗る。僕たちはそれを

何か巨大な水晶のようなもので見ている。

流れに乗った魚の頭の切り口から肉片がこぼれ

その肉片が稚魚へと変わって行く

かと思ったら

大きな魚の頭の切り口もみるみる再生し

尻尾の方も頭を出しはじめ

それを驚く事もなく人ごとのように

ながめている自分がいる。

科学者風がいうには

「地球の奥深くに地底には全ての生命を

維持し、再生させ、生み出す力のある水があり、

これが水ほんらいの姿である」

この水で蘇生した魚はもう死なない。

そして今、地下水からもでて空中を泳ぎはじめた

僕たちは社会科見学をした

小学生のような心持ち浮き立つ心理状態で

また地上へあがり外への通路を歩く

その後ろをどうしたわけか

さっきの魚達がついてくる。

それで僕は思ったんだ、

こんな水があるならもう、

酸素を吸って生きるのがバカバカしいと でも

呼吸してるだけでも奇跡だぜ

目が覚めて、夜明けの街を歩く

やがて雨が降り始め

どうにもならないバカな話しさ

それがみぞれに変わり雪になってまた

現実には何の役にも立たない非生産的な話

雨になり、

僕はさみしさを

ミスタードーナッツの袋を抱えてまぎらわし

暖かいコーヒーを煎れる

漫画みたいな人生

漫画みたいな街

いいように

いいように


自由詩 地下水脈のさかな Copyright フミタケ 2010-03-12 01:59:13
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