ポケット
たもつ



つぶやく、と、言葉が
僕をポケットにする
だから何でも入るし
ピアノだって上手に弾ける
ピアノを弾くと父はだんだん丸くなり
丸くなった背中を母が高く馬跳びする
着地したところはすぐ近くに小さな漁港があって
漁船が湾内にいくつか浮かんでいる
父が、やわらかいお刺身を食べたい、と言うので
漁師さんに死んだ魚をわけてもらう
魚だって丸ごと入る
立派なポケットになった、と
二人ともほめてくれる
気がつけば僕の年は
とっくに両親に追いついてしまった
運河沿いを並んで歩く
昔と同じ距離感で
夫婦には夫婦の
親子には親子の距離で歩く
明日は何をしようか
明日が来るのがあたりまえのように話していると
やがて野原みたいなところではぐれてしまう
迷子のアナウンスをしてくれる係の人を探して
足早に歩く、そして、つぶやく、と、
もうポケットではない僕が
だらしなく破れたポケットを引きずり
ただ足早に歩いている




自由詩 ポケット Copyright たもつ 2010-03-11 19:43:56
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