ブラジルサントスの珈琲は
佐々宝砂
ブラジルサントスの珈琲は飲む人の注意力を増し
キリマンジャロだかブルマンだかは飲む人をリラックスさせるのだそうで
でもそんなことどうでもいいなカフェインが欲しいだけだよと
夜九時半の駅前ローソンで眠眠打破を買い
慢性寝不足のねぼけまなこが煙草くわえて送迎バスを待つ
仕事があるだけましだ
日雇いだけれど
明日の仕事がなんなのかすらわからないけれど
なにはともあれ今夜は夜勤で
一日に一万円ちょい稼げる予定
無駄な知識 無駄な肌の美しさ 無駄な大声 無駄な脚韻に頭韻
私というかなりどうでもいい人間に属する
どうでもいい無駄ななんやかや と
もしかしたら無駄ではないかもしれないわずかななにものか
そのわずかなもしかしたら存在しないかもしれないほどにわずかな
わずかななにものかは未だ換金されたことがない
しかし経済は動いている動いていてその証拠には
隣に座った若いのが夢中でパチスロの話をしている
ごくごくたまにしか儲からねーだろうに
何が面白いのか私にはさっぱりわからないけれど
そう 少なくとも
パチスロは世間に必要とされている
今夜は少しばかりメロウだ
なるべくきつい仕事がしたい
もちろん一日たちっぱなしか歩きっぱなしで
15キログラムくらい詰まった洗剤の箱をパレット積みするとか
落とすとクビになるような高級携帯電話1000個箱を運ぶとか
きついったってその程度のきつさだけれど
なるべくきつい仕事がしたい
額に汗して何も考えないでハイテンションで鼻歌でも歌って
鼻歌歌ったからって怒られて
それでもみごと仕事はこなしたぜと口答えしたい
夜のバスに揺られて
暗い窓に映る間抜けた口元を見ながら
今夜の仕事はなんだろうと考えている
眠眠打破でもブラジルサントスでもなく
ほのあまいジャスミンティーの香りをふと懐かしみ
間抜けた口元をさらに間抜けにゆがめてみる
明日は夜勤がないけれど
私はきっと眠らないのだろう
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労働歌(ルクセンブルクの薔薇詩編)