勝浦
たもつ
明日晴れたらさ
勝浦に行こうかな
仕事なんて休んじゃってさ
海が見えるよ
朝市だってあるよ
そんな時間には
着かないかもしれないけれど
外房線に乗るんだ
上総一ノ宮行きや大原行きじゃ行けない
安房鴨川行きか勝浦行きに乗らなきゃ
勝浦に行くのに勝浦行きに乗るなんて
とても平凡で素敵なことじゃないか
勝浦に行くには
長者町、三門、浪花、御宿なんて
由緒正しい感じのする駅を通過するんだ
ところで由緒正しいと言えば
僕の苗字は「武田」なんだけど
よく武田信玄の子孫?って聞かれる
そんな時は僕の父は福島県出身なんですよ
って答えるけど
武田氏の中には東北まで逃げた人たちもいるらしいよ
なんて真面目な顔で言う人もいる
よしてくれよ、僕のご先祖様は百姓で、
あっ、百姓って今は差別用語だっけ
農民、そう農民でさ
明治になって何でか知らないけど武田姓を名乗ったんだ
江戸時代、農民は姓を名乗れなかったけれど
実は農民にも姓はあったという説も、まあ、あるそうだ
出典は「ウィキペディア」ね
武田の一族の中には
開拓のために北海道に渡った人たちもいる
もう武田は名乗ってないけどね
その子孫のうちの一人は時々千葉まで遊びに来たりした
僕と遊ぶのが上手なお兄さんだったよ
それはそれとして
明日晴れたら、の話だったね、なんて
僕はいったい誰に話しかけてるんだろう
もちろん、これを読んでくれている人にだけど
そんな人いないかもしれないけれど
いずれにしろこんな馴れ馴れしい文体は
「ライ麦畑でつかまえて」
のくそったれの主人公みたいで
いい年したおっさんの使う言葉じゃないね
だから真面目に書くよ
最後くらいは真面目に
ここ最近、朝起きると
何かを失ってしまった気持ちになる
毎日、毎日
何かをひとつずつ
失われたものは
いつも優しくて
名乗らないから
何を失ったのかも
わからないけれど
明日晴れても
勝浦には行かないだろう
もしくはそうでなければ
明日晴れないことを
知ってて言ってる