お化けになりたい
殿岡秀秋

小学校の修学旅行で
男子は三つの班に分かれる
クラスのほとんどがいずれかに手を挙げたが
ぼくはどの班に入っていいかわからない

先生が人数を確認していく
「男子がひとり足りないわ」
それはぼくです
ということができない

クラスのみんなが
名前をあわせながら足し算していく
そのひとりがぼくであることに
気づくまでの長い時間

どの班に入ったらいいか
迷っただけだ
とつぶやいてみる

やがてぼくの名前をささやく声がする
「いや二班に手をあげたみたいだよ」
とぼくの代わりに弁解する声まで聴こえる
その日ぼくはどの班で
修学旅行に行くことになったのか

みんなの前から
お化けのように消えている間
胸は千切れるように痛かった

運動会の日に
校庭に椅子をもちだして
指示されたところに座る

先生の合図で立ち上がる
白線のところまでいって並ぶ
鼓動が早くなる
ぼくの走るときがついにきて
ピストルが鳴る

遅い
前からわかっている
ゴールしてから
旗をもつ生徒に先導されて
椅子のあるところまで戻る

リレー競争で
立ち上がってみんなが騒ぐ
ぼくは椅子に座ったまま
雲をながめる

姿があっても
誰にも見えないで
数えられることもなく
徒競走を走らないですむ
お化けになりたい


自由詩 お化けになりたい Copyright 殿岡秀秋 2010-02-28 09:21:28
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