長い伝言
草野春心




  しらふでいるうちに聞いておきたいことが
  一つや二つ、あった気がするのに
  氷の溶ける音が小賢しく
  かたちあるドラマへと手招きをしたから
  大人しく僕は身を委ねて
  よく知らないジャズと酒と
  金曜ロードショーの垂れ流しの空間に
  言葉を捨てて身を委ねて
  ほどけてしまった魂の
  密教じみた複雑さに手を焼きながら
  ふと目覚めたようにアフリカの大地の
  嗅いだこともない土の匂いを思い出したり
  日本の週末の酒場の喧騒と
  アメリカのC.ブコウスキーの
  やくざな文章を結びつけたりして
  ちびちびと飲むバドワイザーの白い泡に
  静かに……静かに自らを沈めてゆけたらと
  僕がどんなに願い、祈り、
  白痴のようにカタカタ笑っても
  世界の真実はいつも君の側に
  君の吸った煙草に
  鮮やかに残った紅のなかに
  あるのだろう、知っているさ。
  僕は此処から
  あと五分ぐらいしたら居なくなるだろう
  そしてそれから五分ぐらいしたら終電に乗って
  練馬区にある自宅に戻って
  眠りによって原子レベルまで解体される
  僕の思うことすべて、君が伝えてよ
  絶え間なく反射する心の光線
  透き通ることのない厚ぼったい肉体
  別れを告げることで僕らは永久に出会っている




自由詩 長い伝言 Copyright 草野春心 2010-02-26 11:44:42
notebook Home 戻る  過去 未来