どうして忘れてしまうのですか?
真島正人

玩具みたいに
哀しいことってあるもんだ
それの名前は運命
雁字搦めに
人をしてしまうものの名前

Aの名前は強制力で
Bの名前は自由
Bは、自由な自分には、どんな強制力も働かないと
信じて疑わなかったけれども
いつしか荷物が
荷物引き無しで動き出すように
最後には運命が力を持って、
生き物のように自由を吸い込んだ
どこにもたどり着かない
閉じた路地に
Aを放り出してそのままにした。

Aは考えた
自由だった過去のこと
強制力はほとんど初めから
持病のように、存在していたのだ
そのことに気がつかなかっただけのこと、そして、そのことに気がつかないそれゆえに、
自由を行き過ぎたこと
なんて
なんて
あぁ
今は、
動けない荷物の中の、
一つの怒れる小道具のように
Aは、箱の中で打ち震える
こんなはずではなかったのだと

箱はやがて解かれるだろう
Aは再び
世界のあるがままの空気を吸い込む
けれども、Aは、不在が長すぎた
だからAには
ちゃんと認識できない
世界のありようと、
世界の空気の流れ方、
その中でどのように呼吸をすればよいのかを

誤って
天使のような呼吸をして
散りゆく銀杏に怯え
自分だけの平穏な色を探すことに血眼になる
幾度も映画館の座席で座りなおして
落ち着くふりをする
そして彼は知っている
恐ろしいことに
まだ、
全ては生きている
彼を自由から追放した
あの怖い鎖が
生き物になってここに居る
彼を、監視して
彼の荷物を引っ張っている
もやもやとした
別の姿に化けて。


自由詩 どうして忘れてしまうのですか? Copyright 真島正人 2010-02-25 00:44:42
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