男装
楽恵


まず、声を変える
あー、あー、
自分にとって、いちばん低い声を確かめる。

鏡に向かうと、
バリカンで髪の毛を短く刈り込む
思っていた以上にサッパリとする。
大仕事はこれからなのに
どこか拍子抜けしてしまう

ワンタッチタイプの付け髭を
上唇のうえに付ける。
これだけで印象はまったく変わる
自分の口髭を撫でる。
しのび笑いする

女が絶対着ないような、
男物の服に着替える。
胸や身体の形が分かりにくい
たっぷりとした厚手の服。
上げ底のブーツを履く。

玄関先で鏡に映る自分の姿を見て
思わず声をたてて笑ってしまう
下駄箱の上に置いてある花瓶の
ソレイユの赤い薔薇が
私の笑い声でふるえる

ふだんは女のふりをしているが
今日は男のふりをするのだ。

ふだん女のふりをしているように
今日は男のふりをするのだ。




自由詩 男装 Copyright 楽恵 2010-02-23 21:14:48
notebook Home 戻る  過去 未来