日蝕
salco

ある夏の日盛り、
少年は縁側で西瓜を食べていた
ふと、
太陽に西瓜の種ほどの翳りを、
極く僅かな変形を認めた気がした
気にもかけずに少年は
浴衣の足をブラブラさせながら食べ続けた

10分と経たぬのに
日は青空の中でどんどん翳り始めた
月のように欠け始め
やがて半月となり三日月の細さとなり
繊月となって、
ついに
真っ黒な太陽が光輪を連れて出現した
辺りは不思議な闇と静寂に包まれ、
不自然な夜の上には
ネガフィルムに焼きついた太陽

しかし皆既日蝕はいつ迄経っても終わらない
太陽は2度と、その伏せられた黒い皿から
出て来はしなかった
急に不安になって、彼は母を呼んだが
声は痰のように喉に絡まり出て来ない
西瓜は急に不味くなり腐りかけた水のよう
闇と寒気が世界を支配した

以来、彼の周囲は孤立無援の夜であり、
太陽は永遠に反転の磁場から出て来ない
何故なら彼の頭がすっぽりと
太陽を覆っていたからだ
以来、彼は冬服の中で凍え続け、
盲のように石につまづき、
頼るべき声も光も無く
泥水に転倒している
太陽は2度と世界を照らしに出て来ない
何故なら彼の頭がすっぽりと
太陽を覆ってしまったからだ


自由詩 日蝕 Copyright salco 2010-02-23 04:05:32
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