水族館
たもつ

 
タンスの引き出しを開ける
中には冷たい水族館がある
死んだミズクラゲが二匹、三匹浮いている
私は係員ではないけれど
係員であるかのように網ですくい上げる
これをどうしようか思っていると
風呂場から余っている洗面器を見つけだして
てろりんと入れる
服とズボンが濡れてしまったので
着替えたかったけれど
あんなにあった衣服や下着は
どうしてしまったのだろう
引き出しを覗き込んでも
水族館では大きい魚が
小さい魚を食べようとしているところしか見えない
壁を一枚隔てた向こう側には
確かに外と道路と民家があるはずなのに
ただ粛々と
ミズクラゲの腐敗した臭いだけがしている
誰かに電話する用事を思い出して受話器を取る
ふとエラ呼吸の仕方を
忘れていたことに気づく
 
 


自由詩 水族館 Copyright たもつ 2010-02-14 16:23:55
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