アポトーシス
umineko

あなたは知っていましたか
すべての細胞は 
自殺するということを

遺伝子の片すみに 
小さな時計が隠れてて
もういいよってささやくと

それきり細胞は 
すべての作業を放棄して
静かに 溶けてゆくのです

アポトーシス
わたしたちの生はまた 
死で彩られていることの 証明

たとえば
おたまじゃくしを知っていますか
生まれて37日目
しっぽにひしめく細胞が
ゆらゆら消えるその理由

アポトーシス
遺伝子に仕組まれた
せつない時計

もしも
時計が壊れてしまったら
細胞は
永遠(とわ)の未来を手に入れる
やがては世界を制覇して
手のつけられないエゴイズム
そう
あなたはそれを呼ぶでしょう

ああ
癌にかかってしまったね、


*  *  *  *  *  *  *  

おそらく
どんなこころにも
終わりは約束されていて
アポトーシス
それがいつやってくるのか
わからないまま過ぎている

たとえば
昨日見た空のすがしさも
アポトーシス
明日になればありふれた
青い絵の具に成り果てる

胸をふさいだ出来事もまた
乾いていくのも
アポトーシス
それさえ
わかりすぎたこと

あの日
あなたがうつむいて
サヨウナラってつぶやいたのも
アポトーシス
こころの遺伝子に
放たれたリミット

ふたりがこわれていかないように

あなたをゆさゆさ揺さぶって
そのたびひとみは涙を跳ねて
それでもあなたは首をふる
アポトーシス

あなたの肩にかけた両手が
いつしかあなたに食い込んで
それでもわたしは気付いていたのだ

アポトーシス

あなたを蝕む哀しみよりも
わたしのこころは死を選ぶ

*  *  *  *  *  *  *  


何ごともなかったように
呼吸を続けるわたしには

空の色も
風の音も
もう響いてはくれなくて

死んでしまったわたしの上を
さらさら

水はゆくのです



自由詩 アポトーシス Copyright umineko 2004-09-27 21:11:36
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