鋼鉄のカノン
高梁サトル
春を待つ少女の さくら色の唇
それは いとおしく やさしげなもの
懸命ではあるが 滅茶苦茶な その色香を愛しては
氾濫する 崩壊する 享楽の轟きを聞くのは
彼らではない 彼女たち自身の耳
バルコニーによじ登って 愛を謳うロミオを冷笑する
深淵へ向かう 邪な路へ手招きする 想いを振り払って
報われない 救われる 女になるのだ と
(かわいてゆく)
(涙に)
(祝福の)
(くちづけを)
・
混沌のもたらす創造には 常に甘美な美醜が漂う
不明瞭な世界が内包する 大いなる神秘は
死ぬまで私を 解放することはないだろう
奇跡に対峙した時の あの内臓の蕩ける様な感覚
咆哮をあげながら旋回する 獣たちのメリーゴーラウンド
(ほしい)
(欲しい)
(答えが)
(ほしい)
・
いつかの渚よ 見ていなさい
私の鋼鉄のふくらみを これは心臓を護る為の鎧
もうおまえになんか 魅せられはしない
永遠に続く 抗えない欲望と闘う
私は少女を捨てて あの人を 奈落から救いたい
(きれぎれに)
(窒息するほど)
(泣いて)
(ないて)
気がついたら此処にいた けれど
まだ覚えている 呼吸の仕方 忘れない
もう居ぬ人が教えてくれた 生きる誇りを