鋼鉄のカノン
高梁サトル


春を待つ少女の さくら色の唇
それは いとおしく やさしげなもの
懸命ではあるが 滅茶苦茶な その色香を愛しては
氾濫する 崩壊する 享楽の轟きを聞くのは
彼らではない 彼女たち自身の耳

バルコニーによじ登って 愛を謳うロミオを冷笑する
深淵へ向かう 邪な路へ手招きする 想いを振り払って
報われない 救われる 女になるのだ と

(かわいてゆく)
(涙に)
(祝福の)
(くちづけを)



混沌のもたらす創造には 常に甘美な美醜が漂う
不明瞭な世界が内包する 大いなる神秘は
死ぬまで私を 解放することはないだろう
奇跡に対峙した時の あの内臓の蕩ける様な感覚
咆哮をあげながら旋回する 獣たちのメリーゴーラウンド

(ほしい)
(欲しい)
(答えが)
(ほしい)



いつかの渚よ 見ていなさい
私の鋼鉄のふくらみを これは心臓を護る為の鎧
もうおまえになんか 魅せられはしない
永遠に続く 抗えない欲望と闘う
私は少女を捨てて あの人を 奈落から救いたい

(きれぎれに)
(窒息するほど)
(泣いて)
(ないて)

気がついたら此処にいた けれど
まだ覚えている 呼吸の仕方 忘れない
もう居ぬ人が教えてくれた 生きる誇りを


自由詩 鋼鉄のカノン Copyright 高梁サトル 2010-02-12 02:45:54
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