night dive
伊織

今日 はじめて夜の中に潜っていたのです
コルトレーンに導かれて
  深く
  深く
街並みを彩る光の その 奥へ
ほんの少しの明かりと薄くて広大な黒
 を
見たのです
ケータイも忘れ
イオンでの買い物は忘れなかったのですが
はじめて夜の中を泳ぎました


わたしも人の親なので
本来であれば自転車に乗るときにはヘッドフォンを外すのですが
ごくシームレスに
鍵を開け鞄を前かごに詰め防犯用のカバーを前かごに装着してライトの具合を確かめそのまま
駐輪場の坂を漕ぎ出していたのです
地上3mのところで星が揺れていました
息が鼓動を打っていました



上司と別れたのちにすぐヘッドフォンを耳にするのは
見える世界が疲れるからで
毎日、毎日、
降りしきるもろもろの感情は西船橋駅の車中から見えるホテル街のあたりに不法投棄していました
旅に出る理由を100個挙げるのはきわめて簡単ですが
それも津田沼駅でドアが開くまでです
わたしには帰るべき場所と行くべき場所があり
決められた直線を輸送されては降り、
        輸送されては降り、
変わらぬベタ塗りの車窓ではなく携帯に遊ぶ

  はずの

    目を覚ましたのは

      まさしく

        Giant Steps

   今すぐその荷物を降ろしちまえ
   全て、全て身を任せるんだ
   ここが平面だなんて誰が決めた?
   身ぐるみ全部剥いだところで
   わざわざ旅に出る理由なんてない



歩く
 町に浮かぶレイヤーを発見したんだ
 セカイカメラも電脳メガネも必要ない
 私の  私だけのメモリがあればいい




「さよなら、僕は夜に還る」
そう言っては手を振って消えていく人
はじめまして
さきほど夜を発見したばかりのものです
あいにくですが釣り竿は必要ありません
何も足さず何も引かず
ここにたゆたうだけなのですから
待ち焦がれていた世界がどこまでも続き
広がりにただ身を浮かべています
四部合唱なんて高らかに歌い上げるのではなく
テナーサックスの船があればよいのです
それで わたしは泳いでいける
それで わたしは潜っていける

 Hello, World!

今日 はじめてわたしは私だけの世界を発見したのです


自由詩 night dive Copyright 伊織 2010-01-31 16:24:16
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