それでは試験を配ります
瀬崎 虎彦

教壇から頭ごなしに説教をするタイプでもないので
例によって教室を歩き回りながら僕は話す
半年、あるいは一年ほどの付き合いで学生について
何ほどのことが分かるかと問われれば返す言葉もない

もっと話しておくべきだったという人との出会いは
いつも過ぎてしまってから気がつくもので
欧米の言語では過ぎてしまったというと
故人のことを指すことがあるけれどそれは正しい

君たちには輝かしい未来があるなんて
そんな無責任なことは口が裂けてもいえない
そこにないものをなぜ輝かしいと断言できるだろう

沢山嫌な目にあって必死で生きていくことしか出来ない
この教室よりももっと広い過酷な場所で必死で生きてくれ
それでは試験を配ります まあ適当にやってください


自由詩 それでは試験を配ります Copyright 瀬崎 虎彦 2010-01-29 18:27:03
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
教壇詩集