電解質イエロー、あるいは触媒世界
真島正人
放課後の訓練室で
暇をつぶしていた僕たちを
待ち受けていたものは
熱放射だった
侮ってはいけない
強い熱は人を焦がす
ほら、僕の腕にはシミがついている
※
なす術もなく暮れなずむ
淡い光を受け止め
僕の幸福は静止画像のようだ
※
僕という人間は
素通りされていく
僕は日々透明になり
僕は僕独自の波を持つが
この波が他者を浸透することはない
僕の包囲網はうすれてしまった
僕の肌は敏感ではない
腫れぼたく
ごわごわとし
冷え切っている
僕は他の波の高さ低さを案じながら
それを肌に感じることはない
※
懸念材料という名前の町なみが
無機質なとげのように生えている
これは乳幼児のはえそろったばかりの
柔らかい歯に似ているな
僕はそれらを拾い上げ
指できめ細かくなでると
唐突に自分の口の中にも指を入れてみた
かちり、とはけして鳴らない
大人びた僕の歯
※
対比関係
空中の濃度
手を振り上げた青年は
何に向かい手を振り上げたのか忘れてしまった
だが手を振り上げられただけ君はマシだ
君はこぶしの中に掴み取ろうとした
空中に漂う思考を
それは大勢に関係し
そして唯一生き延びてきたものだろう
僕はそう確信している
DAY
AY
Y
電光掲示板が順々に消えていくのだ
PAST
AST
ST
T
僕はもごもごと頼りなく口を動かすと
よじ登るべき『思想』を逸脱する
※
電解質イエロー
あるいは触媒の潤い
台風はもう吹き荒れた
ここは君の荒野だ
僕は草花に過ぎない
きのう風を吸い込んだとき
君はみずみずしさにむせた
手配された砂が
君の砂にもぐりこむとき
君は海を知るだろう
なぜならそれは
呼吸が出来ない場所だから
君を用いることでしか
歌うことの出来ない喉を
非難するのはよせ
僕は目を閉じることが出来る
僕にあと少し勇気があれば
僕は
純度だけに支配された
君のディスクール
解体するだろう
※
他でもない
懐かしい
棄却だけが知る
夏の音
返してよ
返さないよと
遠くから
足音が響く
はてしのない
細かいもののために
迷い込む
ゴム底の靴は
柔らかさのあまり
人にそれを自覚させない