電解質イエロー、あるいは触媒世界
真島正人

放課後の訓練室で
暇をつぶしていた僕たちを
待ち受けていたものは
熱放射だった
侮ってはいけない
強い熱は人を焦がす
ほら、僕の腕にはシミがついている



なす術もなく暮れなずむ
淡い光を受け止め
僕の幸福は静止画像のようだ



僕という人間は
素通りされていく
僕は日々透明になり
僕は僕独自の波を持つが
この波が他者を浸透することはない
僕の包囲網はうすれてしまった
僕の肌は敏感ではない
腫れぼたく
ごわごわとし
冷え切っている
僕は他の波の高さ低さを案じながら
それを肌に感じることはない



懸念材料という名前の町なみが
無機質なとげのように生えている
これは乳幼児のはえそろったばかりの
柔らかい歯に似ているな
僕はそれらを拾い上げ
指できめ細かくなでると
唐突に自分の口の中にも指を入れてみた
かちり、とはけして鳴らない
大人びた僕の歯



対比関係
空中の濃度
手を振り上げた青年は
何に向かい手を振り上げたのか忘れてしまった
だが手を振り上げられただけ君はマシだ
君はこぶしの中に掴み取ろうとした
空中に漂う思考を
それは大勢に関係し
そして唯一生き延びてきたものだろう
僕はそう確信している
DAY
AY

電光掲示板が順々に消えていくのだ
PAST
AST
ST

僕はもごもごと頼りなく口を動かすと
よじ登るべき『思想』を逸脱する



電解質イエロー
あるいは触媒の潤い
台風はもう吹き荒れた
ここは君の荒野だ
僕は草花に過ぎない
きのう風を吸い込んだとき
君はみずみずしさにむせた
手配された砂が
君の砂にもぐりこむとき
君は海を知るだろう
なぜならそれは
呼吸が出来ない場所だから
君を用いることでしか
歌うことの出来ない喉を
非難するのはよせ
僕は目を閉じることが出来る
僕にあと少し勇気があれば
僕は
純度だけに支配された
君のディスクール
解体するだろう



他でもない
懐かしい
棄却だけが知る
夏の音
返してよ
返さないよと
遠くから
足音が響く
はてしのない
細かいもののために
迷い込む
ゴム底の靴は
柔らかさのあまり
人にそれを自覚させない



自由詩 電解質イエロー、あるいは触媒世界 Copyright 真島正人 2010-01-29 02:05:32
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