織布
楽恵

ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
揺れる織機に糸は止め処なく流れる

機織りする貴女の家を訪ねた
白髪交じりの老眼鏡に覗くまなざしは
古代の機織の乙女と変わらぬ清楚さで
遥か遠く
白い川の向こう岸にある

ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
かしずくように耳を澄ます
踏み板のリズム
それは素朴で気高い舞踏に似た 
かつて女たちに母から娘へ伝えられていた祈りのリズム
年老いて乾いた貴女の手が操る杼(ひ)は
けれどもまるで魚のよう
織り上げられていく川に
花は落ち、水は流れる

気づけば私は貴女が漕ぐ舟に乗る
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の一糸一糸
祈りながら機を織る
その布が愛する者たちを雨風から守れよと

ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
そのリズムは私に忘れかけていた人の愛し方を思い出させる

( 自我を無視して、意識を捨てて
  すべての人が内に宿す
  愛だけ見つめよ
  おまえが目に映すべきは
  おまえ自身を含め
  すべての人が内に宿す愛だけ

  すべての人の愛だけ映せよ )

ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン

機織り娘が櫂を漕ぐ舟のうえで
私は私の痛みと恐れを川に流す
私自身とすべての人の過ちを許す

糸は止め処なく流れる

流れる川に私は祈る

私とすべての人に宿る

愛だけ見つめるために


自由詩 織布 Copyright 楽恵 2010-01-24 21:26:50
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