織布
楽恵
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
揺れる織機に糸は止め処なく流れる
機織りする貴女の家を訪ねた
白髪交じりの老眼鏡に覗くまなざしは
古代の機織の乙女と変わらぬ清楚さで
遥か遠く
白い川の向こう岸にある
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
かしずくように耳を澄ます
踏み板のリズム
それは素朴で気高い舞踏に似た
かつて女たちに母から娘へ伝えられていた祈りのリズム
年老いて乾いた貴女の手が操る杼(ひ)は
けれどもまるで魚のよう
織り上げられていく川に
花は落ち、水は流れる
気づけば私は貴女が漕ぐ舟に乗る
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の一糸一糸
祈りながら機を織る
その布が愛する者たちを雨風から守れよと
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
そのリズムは私に忘れかけていた人の愛し方を思い出させる
( 自我を無視して、意識を捨てて
すべての人が内に宿す
愛だけ見つめよ
おまえが目に映すべきは
おまえ自身を含め
すべての人が内に宿す愛だけ
すべての人の愛だけ映せよ )
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
ギッタンバッタン
機織り娘が櫂を漕ぐ舟のうえで
私は私の痛みと恐れを川に流す
私自身とすべての人の過ちを許す
糸は止め処なく流れる
流れる川に私は祈る
私とすべての人に宿る
愛だけ見つめるために