道をわたらなかった声
水町綜助

もう香りがのこる
残り香が横断する道路の

道路の
広すぎる
歩幅を足がちぎれるほど
振り出し
わたる
わたったあの環状道路
青く雲がたなびくあの
勾配ある町の向こうには
排気雲が美し
い、とはどんな
どんなさまだ
この今俺が
言いあぐねている
あの語られてしまった
発せられることのない
おん・音の組み
合わせ、目は
ほんのつまびらかな
白いすじとして
あのころを
眠りと明け方の
目を閉じ
また眠るような
数秒のあからさまを
あからさまを

近くの緑地公園で
あなたに後ろ回し蹴りを見せた
なんであの限られた時間を
そんな無益なことにわずかでも使ったのか
本当に掛け値なく
くだらないよね
スポーツ用品店で
サンドバッグを打つ
まねをしてできない
若い
あの冬のような
あなたの故郷の
鼻頭を冷やす空気

ちょうど町を分断する
道の広さは同じくらい
足を引きちぎるほどにふる
二十六歳
あなたの声を、が

聞こえなかった



自由詩 道をわたらなかった声 Copyright 水町綜助 2010-01-24 05:25:48
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