単純な物語に回収されてはならない 1
真島正人

たぶん私たちは恐れを忘れてしまった

チェスの駒で現実を語り、物語は日々陳腐になる

弾幕で煙たくなった目は配分する力を失っている

大声で吠えるものたちだけが跋扈して

誇りと情緒不安定を履き違えたまま通勤する

単純な物語は肥大した扁桃腺だ

音に震え音を捻り出す

天使のハープを石に変え、死者の魂を利用して、恥じることすらない

かつて体感した記憶だけが現実であり、体感を勝る事実は無いということを

忘れ果てた人々は

再び古い物語を選択しうる

使い捨てられ、唾を吐きかけられ、あれだけ軽蔑された物語、それは

甘い砂糖菓子のコーティングと英雄譚で補ってあるのだ

私たちの肉体は、神経に縛られている

神経は、私たちに感覚を与える

私たちは留意していながら、忘れている



本来、私たちの感覚は、独立を忘れ、回収されることを好む

それは動物の持つ本能の一つだ

私たちは日々無意識に

回収作業を行い、自身大きな渦に回収されることで、安心を得る

私は涙が自然に流れ落ちて止まらない

かつてあれだけ苦しんだのに

かつてあれだけ抗ったのに


自由詩 単純な物語に回収されてはならない 1 Copyright 真島正人 2010-01-24 02:57:48
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