言葉だけがむなしく響く。
真島正人

私たちの窪みは誰も落とさない



高望みからありふれた事実へと導線が導く



穢されてはならないと語るときの硬直が面白い



『大きな前提』が言い忘れた言葉を私たちが捉えることは出来ない



数え切れないアフォリズムを伴って昨日

『黒い塊』が聖堂の前で殺されていた

むごたらしい汚れた死体だった、



そこにあったのはただの静だ

ちっぽけなそして測りきれない生命のゆらめきを私たちは軍備していた



空から一羽のカラスが舞い降りたのだが

私たちの目はそらされた



私は呟きをもらすことの出来ない閉じた人間だ



閉じた一人の人間が何かを訴えるとき

この口は硬直し泡を吹き細々とした音を搾り出すだろう



夕暮れまであと少しならば

夜が来るのはもっと早い



慰めを辱めと取り違えたからあなたは救われなかったのだ



口先だけが語る言葉を私は信用しない

多くの批評は本来それそのものがただの芸術に過ぎない

最大の問題は

強い言葉を語る人種がその言葉の強さに酔う自分自身を想像できないことだ



大きな河がある

河を見ていると泣きそうになる

河のほとりで生まれたわけでもないのに



貴様らに何がわかる?

貴様らの何が何を知っている?

貴様らがあざ笑い

貴様らが褒め称え保護しようとするのは

目を覆いたくなるような

死んで悪臭を放つ赤子だ



私の赤子はもういない

海に沈めておいたら穴子がすっかりと食べてしまった

楽なものだ



取れるものは取っておきなさい何かの折にきっと使用するあてが出来るはずだから



純粋さが単純さを飲み込むその逆もありうる

私たちの対抗手段は私たちが賢明になることではない



救いがたい純情をどのように鎮めればよいのか書いてある書物を探すだけで

昨日一日を消費してしまった



週末に飲む紅茶の匂いひとつでここまで気が楽になるのだから



希望を伴って続ければいい



簡易手当てをしておいた

ただの応急処置だ

君自身がこのあとどのように処置するのかを選べばいい

それは誰かが決められることではないアドヴァイスは一定以上の示唆を示さないのが通例だ

最高のアドヴァイスとは「君をアドヴァイスの検討の渦に引き込まない」こと

君は手をつくして鎮めるしかない君のその熱と痛みの中に潜む邪悪を

君は物事を単純化しすぐに答えを出してはならない

君は空を見上げ虹を認めるだろう

こんな空にも虹はかかる

君は難しいことを考える必要はない

僕は君に、わざと当たり前のことだけを語っておくことにする

そのほうが絶対にいいからだ

難しさにも単純さにも絡めとられてはならない

ただ当たり前のことだけに目を向けるべきだ

君はいま野原にいる

君のずっと背後には君を休めるテントがある

君はそのうちに包帯をそっとはずさなければならない

君は君自身の腕の状態をその目で見なければならない

一方で、これだけ君に言って聞かせた僕は善人ではない

僕は君に言って聞かせることで

僕自身の負債を君に譲渡した

そのことは留意しておくほうがいい


自由詩 言葉だけがむなしく響く。 Copyright 真島正人 2010-01-23 03:55:24
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