中島の牛丼屋
オイタル

積もった雪をまたいで店に入ると
中くらいの幸せに乗っかった人たちが いっぱい
箸の先にお漬物ぶら下げて
あんまり忙しそうじゃないな

中島があんな歌を歌うもんだから
牛丼屋は
少し不幸な夜の人たちであふれてる
と思ってたんだけど

三十半ばのきれいな髪のお母さん
娘と息子 連れて
並二つと半盛り一つを注文
する声はちょっと低めのソプラノ
隣の席の若いカップル
猫背であごを突き出してしゃべってる
茶色の髪の体格のいいお兄さんだ 早口で
お姐さんは
顔が濃くて爪が白くて
写真のネガみたいになっちゃって

道路の向こう側の岩陰で
男たちが何人か こわいひげをなでたり
腕を組んだりしながら
「お知らせ」を待っているんだ
もうあきあきしてる「お知らせ」を
もう二度と聞かなくていい 古い冗談を

ごはんの上にまばらな牛肉
皿の上で爆発する子持ちの爆弾
肉につられて生返事の
「脳みそ牛肉男」の下品な口元に炸裂させる汚れた爆弾
一足ごとに油断できないあっとおどろく地雷のてんぷら
心中密かに 四方八方爆弾の雨を降らせながら
中島を聞きながら
お姐さんは ぶらさげている箸の先
ゆうらりと
紅い お漬物がゆれる その先


自由詩 中島の牛丼屋 Copyright オイタル 2010-01-23 00:49:22
notebook Home 戻る