西瓜
サカナ

夏の初めの宴会は
私の手の届かないところで始まる
少し水を含んだ粘膜が柔らかく糸を引き始めて
まだ湧いたばかりの入道の行方を
飛ぶ鳥だけが追いかける事が出来る

遅咲きの妹は去年の春に熟れた
食べごろなのにとひとりごちて
静かに悲しいねといった
五分丈の袖から爪へのラインがきれいな妹の体が
縁側に寝転がって風を呼んでいた
栞をはさむ作業が好きだといってでたらめなところに爪を立てた
余分な事が全部世界の裏側にいったような気がした

線香花火で終わる夏を待ち切れないでいた
夏蒲団に埋もれていた脚から風の滴る音がする
障子戸の隙間から覗く庭には昔からの雌鶏がいて
あの目はこちらを向くと少しだけ妹に似ている

隣の家の娘は箱入りで
とても壁越しに盗み見る事はできなかったが
その娘が先日妊婦になったと聞いた
果たして箱の中の娘は
その羊水の中で胎児を育てるか
箱式の螺子が巻きあげられて
季節の継ぎ目に軋みを上げる

線香花火の夏を束ねて火を放つ
熱っぽく大きくなってぼとりと落ちた先端を見て
妹に似ていると思った

世界の裏側なんて何一つ見えなくてよかった
ただ風鈴の風を呼んでいた縁側で
栞をはさむ妹の背中の爪痕が見えていればよかった
それ以外のことは全部世界の裏側にあるような気がした

線香花火の夏が来た
妹は遅咲きで私は食べごろだと思う
瑞々しいあれは西の瓜
はさまれた栞の頁を記憶する


自由詩 西瓜 Copyright サカナ 2004-09-24 23:43:25
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