降板
たもつ


行ったきり帰って来ない父を待っている間に
僕は肩を壊してボールを握れなくなった
故障した肩は匂いや形が花に似ているみたいで
通りを歩いていると勘違いしたハチが集まってきて困る
その度にそよ風のようなタッチで叩き落とさなければいけない
何事も大切なのはそよ風のようなタッチだ
父の口癖を僕は守り続けた
それでもハチに当たらないときは
いよいよ判定に持ち込まれる
真夏の炎天下、旗を降る係の人も大変だ
ほんの気持ちですからと中元や歳暮を贈っても
風光明媚な絵葉書を添えて丁寧に送り返してくる
その後は採血検査
こちらの検査員は中元や歳暮どころか
三食昼寝付きまで喜んで受け取る
それなのに検査の結果を教えてもらったことはない
今頃は冷たい箱のような中にコレクションされているのだろう
おかげで友人からも
エッチな身体になったね
と言われるようになった
腰を振り振り歩くと
ああ、自分も立派になったんだなあ
という実感がわいてきて
余計にハチが集まってきてしまう
時々父が殺虫剤のスプレーを持って助けに駆けつけてくれる
そんな夢を見る
父さん、僕は人より肌が弱いんだよう
いつも嫌な汗をかいてとび起きる
考えてみれば物心ついてから寝汗ばかりかいている気がする
ためしにノートいっぱいに父の名を書き殴ってみる
どこかに点をつけなければならないというのに
スライダーの投げ方みたいにうまく思い出せない





自由詩 降板 Copyright たもつ 2004-09-24 14:27:05
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