1978-
水町綜助

1985-
空に敷かれた黒いうろこが
ぽろぽろと剥がれてゆくとき
一枚が地に落ち
流れ出す水の音が聞こえ
また一枚が地に落ち
呼気が甲高く
一枚が砕けて
それはなき声と繋がって

走り行く白い車
ローレルという名前だった気がする
木々のあいだを縫いつける光
後部座席にこぼされたミルクを照らし
車内は
ひたされ
光が掻き回し
つぎつぎと破裂しては落ちていく明るさの中で
母親の顔をみた
白いハンカチがミルクを吸い
じ と小さな染みが点り
吸い続けている
母はひろがる染みに
視線を落とし続けている
閉じかけられた瞼と
まつげに結露するひかり
停止した母と
停止した僕は
時間の中で
車輪の音だけを聞いて

白い空の中に黒く細く街路灯が焼け付き
ぼろぼろと崩れては何本も何本も
後ろに散って飛んでゆく
滑ってゆく世界が
うしろに流れてゆく
僕たちは停まっている
ハンカチに染み込むように


たいした違いではなかった

息遣いが聞こえていたうちは

それから

運転席はすっかり取り払われ

あなたは磁石を騙し取られ

代わりにさみしさを手に入れることになった

ある朝それはあなたの手をつよく掴んで

手のひらに載せて握らせ

そして消えてしまった

地方都市の道の上で

低いビルが作り続けられる中で

あなたはひとり立ち

今も立っていて僕はそれを見ている

遠い街から

時折手紙をよこすように




自由詩 1978- Copyright 水町綜助 2010-01-17 11:28:57
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