ネグリ
真島正人
かつて見たことを撒き散らす
夜の遊覧船
僕は見ていた
幸先を試す
二人の老婆を
※
花だけを手折り
匂いにとらわれ
忘れてしまっていた
胞子状の軋轢
※
長い道のり
どこまでも続く
先の長いナイフ
※
とがっているものと
とがっていないもの
冷えているものと
冷えていないもの
熱しやすく
割れやすく
優しさには弱く
やたらと硬い汚物
※
君のマットのことを忘れていた
8月からそのままの稜線
※
仲が良かった二人が
必ずつがいになるとは
限らない
※
語っておいて良かったこと
語らないほうが良かったこと
語らないで置いておくと
自然に牽引されていくもの
その貨車に馴染む
青白い炎
※
君をゆっくりと燃やしたのは僕だ
僕がゆっくりと燃やした
もやい影をまとう君は
そのままでも良かったのだが
※
夜が更けてからしっかりと
連絡をする
いつものあの匂いのいい肉屋の前で
待っていてほしい
ありったけの後悔と懺悔は
物干し竿につるして
自然光で乾かすことにした
※
君は語れ
そして歩め
体中の大気を
吐き出してしまうがいい
※
懐かしい郷愁
戯れだけが
帽子をかぶっている
※
ひとつ、ふたつ、みっつ
数え上げればきりがないが
数え切れない数の港が
一斉に吹き出した
歪み
※
現代の何が
問題なのか
現代の何が
塹壕で息を潜めているのか
それはいまだ現代なのか
あの草いきれのいやな匂いは何か。
※
君はしっかりと見たのか
その瞳で
※
鐘が8つ鳴ると逃げ出せ
それまではゆっくりと拒み、ゆっくりと赦すがいい
※
呼吸だけが君を助ける
僕は転倒し
昨日スリッパを間違えてはいた
昨日庭には雨が降っていた
木製の
ガーデニングチェアが濡れていた
流星が降った
だが流星は降らない
何かが反射していた
思いの丈をそのままにして
らせん状に
上っていく
君のその階段に
いくつも仕掛けられていた意味のない罠は
僕には痛かったが
僕はそれを克服した
あとは君の、
口からつむがれる幸福があればいい
恐れるな
歌え