ネグリ
真島正人

かつて見たことを撒き散らす
夜の遊覧船
僕は見ていた
幸先を試す
二人の老婆を



花だけを手折り
匂いにとらわれ
忘れてしまっていた
胞子状の軋轢



長い道のり
どこまでも続く
先の長いナイフ



とがっているものと
とがっていないもの
冷えているものと
冷えていないもの
熱しやすく
割れやすく
優しさには弱く
やたらと硬い汚物



君のマットのことを忘れていた
8月からそのままの稜線



仲が良かった二人が
必ずつがいになるとは
限らない



語っておいて良かったこと
語らないほうが良かったこと

語らないで置いておくと
自然に牽引されていくもの
その貨車に馴染む
青白い炎



君をゆっくりと燃やしたのは僕だ
僕がゆっくりと燃やした
もやい影をまとう君は
そのままでも良かったのだが



夜が更けてからしっかりと
連絡をする
いつものあの匂いのいい肉屋の前で
待っていてほしい
ありったけの後悔と懺悔は
物干し竿につるして
自然光で乾かすことにした



君は語れ
そして歩め
体中の大気を
吐き出してしまうがいい



懐かしい郷愁
戯れだけが
帽子をかぶっている



ひとつ、ふたつ、みっつ

数え上げればきりがないが

数え切れない数の港が

一斉に吹き出した

歪み



現代の何が
問題なのか
現代の何が
塹壕で息を潜めているのか
それはいまだ現代なのか
あの草いきれのいやな匂いは何か。



君はしっかりと見たのか
その瞳で



鐘が8つ鳴ると逃げ出せ
それまではゆっくりと拒み、ゆっくりと赦すがいい



呼吸だけが君を助ける
僕は転倒し
昨日スリッパを間違えてはいた
昨日庭には雨が降っていた
木製の
ガーデニングチェアが濡れていた
流星が降った
だが流星は降らない
何かが反射していた
思いの丈をそのままにして
らせん状に
上っていく
君のその階段に
いくつも仕掛けられていた意味のない罠は
僕には痛かったが
僕はそれを克服した
あとは君の、
口からつむがれる幸福があればいい

恐れるな
歌え


自由詩 ネグリ Copyright 真島正人 2010-01-10 01:40:14
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