牢の花、めめぞ群
山内緋呂子

 天涯くんと鳩子がカーサ針山で暮らし始めたので、わらび餅を持って遊びに行った。

 玄関から枯れた草が、半分ならオブジェなのに居間までのびていたのでもう帰りたかったが
「お花見に行きたい!」と鳩子が言うので、すだれとか、金魚用の水草とかをくぐりぬけて3人で外へ出た。

やっぱり、150円で小さな鉢植えを買おうとしても気にいらないお花だったり、草ばっかりだったりする。だからお花見と言っても、草ばっかりだったりすんじゃなかろか、

と、後ろの二人を振り返ると、マーブルチョコのピンクがとても激しいゼ!とかオレンジも捨てたもんじゃないと、手のひらの上で選び合っている。
「遠足かよ」と一人行進。
 柳の下に立つと、自分の髪の長さだとか、二の腕を隠す広い半袖だとかに、草がかぶさる。

「今、私ゆうれいに見えるんじゃない?」と期待して、遠く二人に向かって柳を揺らした。

途中、電柱が立ち並んで二人が見えなくなる。

「今、私パンダだったらこの草食べてたなあ」と思うがそれは笹。パンダが食べるのは笹。パンダはお花の香りの屁をするらしい。何と愛らしい。自然保護団体パンダ極保護部門の、家でパンダを飼っているおじさんがいたら寄付したいぐらいだ。


 草の多い公園に着いて天涯くんが、ござ持ってきた言うんで鳩子とせっせこ草をとりのぞいていたところ
「あなた、困ります」と、みみずの女郎が飛び出た。
「あんた、女郎」鳩子がめずらしく冷たいしゃべり方をするのでびっくりした。
「まあ、何だろ女郎言うか牢名主。ここ、みみずの牢であって、その座る大事なとこにござ敷こうとしてたんだね」
と、めめぞから気をそらそうと、ござを引いて引いて木陰から出てしまっていると、
鳩子が一人
大きい木陰に一人、帽子をとって寝ていた。
「場所を移動したよ」と言うと、

「女郎。草を抜かなければ一緒に寝ていいんだって。新しい屋根がやってきてつぶれるのはいいけど、もとの草が引っこ抜かれるのはかなわないって。女郎」

めめぞ。

では皆さんで女郎ごっこでもと、天涯くんは本当はお日様の下が大好きなのだが引いてきて引いてきて、3人で女郎と寝た。

ござの上にわらび餅置いてきてしまった。
ござだけが、おてんとう様にあたっていた。

結局夏だから、大きな木にお花などついておらず、目をこらせば、小さい花などついているのだろうか。

頭を動かすとすぐ横に、たんぽぽやらはこべやらが見えた。
「鳩子、お花見」呼ぶと、寝ていた。


天涯くんはこんないいピンク色見たことないとしきりにマーブルチョコをほめ、何色でもいい、何色でもいいと私は10年ぶりだかにきれいな色のチョコを食べた。



(2004.7)


散文(批評随筆小説等) 牢の花、めめぞ群 Copyright 山内緋呂子 2004-09-23 08:26:38
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