晧と呼ぶもの
小池房枝

月が
高みから
晧、と呼ぶので

虫が
地中で
コウ、と答える

土の中
一寸ほどの虫たちは
丸くなって眠っている

植物たちは
眠らない

夜は
昼に得たものの始末に
それぞれの季節は
次の季節の支度に
植物たちは
一日中、一年中、体ごと忙しい

虫たちだけが
眠っているので
月が
光で問いかける
晧、と

魂などではなく
オマエは生きているか
覚えているかと

そうして
虫たちの体、背中だけ
土越しに
コウ、と
仰向いて答えている

地表から
ほんの数センチメートルの処で結ばれる霜が
さらさらと
ずいぶん高みからの光とともに降る夜

耳を
澄ませていると
寝返りを打った瞬間
コウ、と
小さな声がした

屋根越しに
呼ばれて答えるものが
わたしの背にもいたのか

コウ、と
おまえ、わたしの背中
おまえも、月に呼ばれるものか


自由詩 晧と呼ぶもの Copyright 小池房枝 2010-01-05 23:59:24
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