踏み切りからの哀愁
朧月

あのとき踏み切りの前で思いとどまらせたのは
お前の もう帰ろう 
というひとことだった


母は繰り返す
私をみていない目で 私を語る


お前はぎゅっと私の手を握り それで私は はっと目覚めた


それは私ではありません 
それはあなたがつくりだした私
それは あなたの唯一すきな私


私は 握り締めたという手の平をじっとみつめる
そして 恐ろしい感情に身震いする


やめてくれ もう その話をやめてくれ

と願いながら きく夜の痛みに
耐えかねる冬の雪の白さよ


カンカンカンと鳴る遮断機は
なぜ なにもかもを遮断するギロチンにならなかったか
線路は 闇にむかって伸びなかったか


今もなお 
つながれているかのように 恍惚にひたる
母の手の平の温度が
あがって今夜も幕を閉じる



自由詩 踏み切りからの哀愁 Copyright 朧月 2009-12-31 00:24:30
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