習作散文詩  無題
rabbitfighter

目覚まし時計のコチコチ音が急に大きくなったような気がして、そうじゃない、周りが静かになったんだと何秒後かに気付く。真夜中。時計には重要な役目が二つある。一つは時を告げること。もう一つは、時を刻むこと。アダルトショップで買った聴診器でいま、猫の心音を聴いている。小さな心臓が膨らんだり縮んだりしながら刻む鼓動。体の中は水で満たされているから、湿った音がする。アダルトショップにはほかにも色とりどりのバイブやローターや縄が並んでいた。新しいナンパのアプローチを思いつく。聴診器を首にかけたまま街に出て、道行く女の子にちょっと君の心音を聴かせてくれないかと頼むんだ。すごく優しい音だね、とか言ってみたい。耳を澄ませば。耳を澄ませば、どんな小さな音だって聞こえそうな気がして、ひょっとしたら君の心からこぼれた音だって聞くことが出来るかもしれない。声にもならず、その他のどんな表現手段にもなれなかった音、こぼれてしまった心の音。すごく優しい音だね、とか言ってみたい。きみはいやがるかもしれないけど、きみの胸に聴診器をあてて、小さな音に、耳を傾けたい。



自由詩 習作散文詩  無題 Copyright rabbitfighter 2009-12-28 02:00:16
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