風のオマージュ その2
みつべえ
☆村野四郎「体操詩集」の場合
次の詩を読み設問に答えなさい。
花のように雲たちの衣裳がひらく/水の反射が/あなたの裸体に縞をつける/あなたは遂に飛びだした/筋肉の翅で/日に焦げた小さい蜂よ/あなたは花に向かって落ち/つき刺さるようにもぐりこんだ/軈て あちらの花のかげから/あなたは出てくる/液体に濡れて/さも重たそうに
設問 この作品は何を表現しているのか、ふさわしい題名をつけなさい。
高校時代、現代国語のテストに上記のような問題を出されたことがあります。教科書外からの出題で、当時から軽薄な美丈夫であり(笑)、詩といえばせいぜい中原中也と、やなせたかしくらいしか知らなかった私には、この詩はやけに新奇なものに思えました。いまなら、言語のふしぎな機能美にうたれて眩暈をおぼえた、と書くところです。思えばあれが、生まれてはじめて現代詩に出会った私のカルチャーショックだったのでしょう。
ところで、私はこのとき正解(?)できませんでした。「蜂と花の情事」と書いて、力いっぱい×。
テスト終了後に、問題を作ったM先生が得意げに言いました。
「この詩は、村野四郎という詩人の『体操詩集』のなかの1篇です。」
後日、採点の結果を聞いてびっくり。ずばり「飛込み」と答えることができたのは、50人中たったの1人だったからです。あー、水泳の種目のことか。なるほどユーレイの正体見たり枯尾花。その日から私はその同級生に敬意を払うようになったのですが、その反面、詩をクイズのように扱ってぼくらを嘲弄したM先生には腹を立てました。
けれども、あとでよく考えてみると、ちょっと皮肉な言い方ですが、現代教育が生徒全員に同じ答を期待する傾向が強いなかで、あえて百人百様の答しか出せない形で問を発したのは、M先生の体制への消極的反抗、あるいは良心的反省、とにかく一種の洒落だったにちがいないと思い直しました。いやいや、先生に対して何という不遜。若いときはきっとみんな厚顔無恥なんでしょうね(笑)。いやいや、私はいまでもそうですが。
これを契機に、私は図書館で「体操詩集」を借り出して読みふけることになるのです。そして、ひとつ呪文をおぼえました。ノイエザハリヒカイト、新即物主義。
●村野四郎(1901~1975)
府中市に生まれる。荻原井泉水の自由律俳句を経て、詩の方法意識の深化に向かった。「体操詩集」は新即物主義の成果といわれている。
この文書は以下の文書グループに登録されています。
☆風のオマージュ