君を愛している
草野春心
水曜の午後、学校をさぼって
僕は君に会いに行った
西武線の黄色い電車に乗って
買ったばかりのヘッドフォンの内側で
ポール・マッカートニーは叫んでた
Maybe I’m amazed at the way you love me all the time
かなしくなるくらい叫んでたよ
11月の頭からつま先まで
僕は君に会いたくてずっと爪を噛んでいたんだ
でもそれと同じぐらい僕は
クラフトワークの全集が欲しかったし
荒木飛呂彦の漫画の続きを待ちわびたりもしていた
そしてそんな寂しい事を考えると
僕はいっそう君に会いたくて爪を噛むんだ
会いたいというより会っておきたいっていうか
会わずには居られないというか
それぐらい君のことが大好きで愛しくて
でも反対に僕は
自分のことが大嫌いで憎くて仕方なく
自転車の後ろに君を乗っけられないぐらい
力も弱いし腕だって手羽先みたいに細い
最近すごく痩せてさ
誰も自分でふれたことのない骨にだって、
簡単に触ることができるほどさ
心ももちろん弱くて卑屈で頼りなくて軽度の鬱で
爪を噛むのだって本当はやめたいし
君は美人じゃないし嘘つきだし見栄っ張りだ
それでも僕は救われているよ
君が「そのままでいいのよ」も「しっかりなさい」も言わず
「愛しているわ」さえ言わずにいてくれることで
そして沈黙だけを差し出してくれることで
僕は救われているよ、許されているよ
だから僕も君に何も言わないようにしてる
暴発しそうな気持ちに栓をしてね
だからこうして水曜の午後を君に差し出している
でも
たぶん死に際ぐらいには
ちゃんと君に言うつもりだよ
爪がなくなっちゃうぐらい
君を愛している