【140字小説】裸婦他
三州生桑

【ラブレター】
「彼女とヨリが戻ったよ、有り難う!」「よかったわね!」「うん、君のアドバイス通り、手書きのラブレターを彼女に渡したら、もう大喜びでさ」それはあたしが欲しかったもの。「君のおかげだよ。お礼をしなくちゃ。何か欲しいものある?」ラブレターよ! あなたの書いた、あたし宛てのラブレター!!


【天国と地獄】
あるのはただ生きたいといふ本能だけだった。熱いといふ言葉も、恨みといふ感情も、まだ知る由もなかった。わづかな泣き声すらもう出なかった。車内の温度は五十℃を越えようとしてゐる。最期に思ひ浮かんだのは母乳のにじむ乳首だった……。母親はパチンコをしてゐた。冷房と興奮で鳥肌を立てながら。


【裸婦】
アトリエでデッサンを描いてゐる最中に若いヌードモデルが可愛らしいおならをした。「今のは描かないで下さいね」とクスクス笑ひながら言ふ。感じの良い娘だが、もう三回も堕胎してゐる。それぞれ違ふ男の胎児を。「今の恋人はどう?」「もう最高の彼氏なんですよ!」と彼女は微動だにせず言ひ放った。


【二頭の馬】
向かひ合った二頭の馬が盛んに白い息を吐き、私を物笑ひの種にしてゐた。片目で私をちらと見ては、をかしくてたまらぬ風情で大笑ひしてゐる。悔しくてたまらないが二頭の馬には敵はない。そのうち彼らは際限も無く長い小便をし始めた。私は怒りに震へながら、むりやり作り笑ひを浮かべるしかなかった。





■三州生桑 140字小説Twitter■
http://twitter.com/sanshu_seiso


散文(批評随筆小説等) 【140字小説】裸婦他 Copyright 三州生桑 2009-12-18 20:28:15
notebook Home 戻る