「名」馬列伝(13) トウショウフリート
角田寿星

皆さんは競馬の予想をする時、血統をどのくらい参考にするだろうか。
菊花賞に、ニホンピロウイナー産駒のメガスターダムが有力馬として出走した時はそれなりに話題になったし、ひと昔前ならモガミ産駒の障害馬は、それだけで買いだった。
筆者のお気に入りでは「ディクタスの仔はみんな朝寝坊」というのがある。サッカーボーイもそうだったのだろうか。

親馬の遺伝を強く伝えるために近親を掛け合わせる、いわゆるインブリード。
近親交配は、遺伝力が強い一方、体質が弱くなる弊害がある、と一般に言われている。
現役馬ではスワンS4着のショウナンカザンあたりか。
サクラユタカオーの3×3という、比較的きついインブリードを持つ。
トキノミノル、トウショウボーイの「奇跡の血量」については言うまでもないだろう。

さて、彼のことである。
彼は牝系のインブリードを持つ。
牝系のインブリードで有名なのはエルコンドルパサー。
さらに大種牡馬ノーザンテーストはレディアンジェラの2×3を持つことも知られている。
彼のインブリードは、ソシアルバターフライの3×3。
そう、言わずと知れたトウショウ一族の基幹牝馬である。

彼の場合、このインブリードは、体質の弱さに顕著になって現れた。
デビューは遅れに遅れて、なんと3歳の10月。福島だった。
もう菊花賞のトライアルも過ぎ、未勝利戦もそろそろ終了しようか、という頃である。
しかしながら2戦目の未勝利戦、ダート1000mを、8馬身差の圧勝。
素質の片鱗をみせる。

以降も、脚元に負担の少ないダートの条件戦を使われながら、勝ち星を積み重ねていく。
ほとんどが持ち前の快速でポンとハナに立ち、そのまま逃げ切るレーススタイルであった。
負ける時は脆かったが、勝つ時は圧勝、完勝。格が違うといわんばかりの内容だった。
秋嶺Sでは、東京D1400mのレコード勝ち。
箱根Sでは、久しぶりの芝。本格化直前のマイスタージンガーを直線捉え、勝利を収める。
5歳にして、とうとうオープン入りを果たした。

迎えたオープン特別、パラダイスS。
相手関係に恵まれたこともあるが、東京芝1400mを、先行策から5馬身差の圧勝。
今後の短距離マイル重賞戦線での活躍を充分期待できる内容だった。

が。
彼の競走生活は、ここで突然、終わりを告げる。
資料がほんとうになく、詳しいことが分らないのだが、当時の記憶では、特に大きな故障はなかったと思う。
ただ、オープン古馬との芝の対決は、いつもより確実に彼の脚元を蝕んだのだろう。
通算11戦7勝。オープン特別勝ちひとつ。重賞出走歴、なし。
これが彼の競走成績のすべてだった。

故郷に戻り種牡馬生活をはじめた彼であったが、この成績では相手に恵まれるはずもない。
しかもソシアルバターフライの血を濃く持っているために、牧場内の牝馬ともなかなか種付けできない。
2006年をもって、用途変更により供用停止となる。

しかし彼の名が、一頭の牝馬の活躍により、再び登場することになる。
シーイズトウショウである。彼女の母の父が、誰あろう彼であった。
彼女の太く長い活躍を見るたび、彼の種牡馬としての未知の力量を伺い知ることができた、というのは言い過ぎだろうか。
思えば、彼のこの配合は、ノーザンテーストの日本版を作ろうとしたのか、と考えることもできる。
故郷の牧場で余生を送る彼であるが、彼の物語は、まだまだ終わらない。


トウショウフリート     1988.4.27生
              11戦7勝
              おもな勝ち鞍  パラダイスS


散文(批評随筆小説等) 「名」馬列伝(13) トウショウフリート Copyright 角田寿星 2009-12-13 22:04:35
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