銀杏
月乃助



もっと話を聞かせてくれませんか

そうしたら、
あたしは、言葉のあいまに置かれた
なだらかな読点【、】に背をもたせ、
気まぐれに口をつぐむあなたの 数知れぬ句点【。】の
小さなそのまるの中に心地よく
うずくまることだってできるのです
そして、じっと言葉の投げかける陰の 
あいまいな色に染まった意味を
胸のうちに確かめる

いつか発露される言葉の音の波に、
その隙間に隠れた想いをさがし歩くことだって、
裏側に、きっと眠っている海鳴りの
きびしい轟きだって
耳にすることが
できるのに、

小さなテーブルにつもる言の葉の気息は、
はらはらと舞い落ちる 銀杏のような
形ばかりは純真な 黄色に色づく
乙女の髪をしたものたちの その音さえもわずらわしい
だから、それを並べ替えたりせずとも
もっとこなごなに くだいてしまって
生まれたままのように
嬰児の泣き声のように
話してくれたら

いつもと変わらぬ、
紅茶は、ミルクを先にいれておくれ も
秋が終わったら街も、クリスマスだね、も
来年のダイアリーを買わないといけない も
日常を口にしたところで、
心の奥に眠っている想いを隠していては、
どれもあたしには届かない/響かない

    ―◆―

言葉には、もたらされる質量があるのですから
それを心にとどめるほどの重さがまして、
物質のように存在をしめす芳香をはなち
形をなしてくれるのならば、積み上げるそれを
あの頃からずっと続いていながら
わかろうとするのも簡単だろうに
時に実になったそれを拾い集めてみれば、

銀杏ぎんなんのように口にあまそうな黄色い実が、
やっぱり、ここではこんなに
強い異臭ばかりの、いつまでたっても指先からはなれない

どうしようもなくて、なんども手を洗うはめになるなんて

それでも、あなたは優しくわらっているのですね、
テーブルに向かったまま

いつもの 

とおく 遮断された






【 あたたかさ 】







自由詩 銀杏 Copyright 月乃助 2009-11-21 05:46:50
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