皿の上を留守にしている
ゼロスケ

厳かなガラス窓は空気を揺さぶり
ついで昼間の光が皮肉まじりに照らしたので
塵と埃の谷間 誰も知らない村から
ささやき交わしたり毛を伸ばしたり
微生物の営みが浮かび上がった
まだかすかに漂うストーブの温みが
からっぽの部屋を暖めている

彩った落ち葉が降り積もったかのような絨毯へ
ひとりでに転がる冷えたチキン
まるで騎士の首級のよう
油まみれのぶよぶよした皮は
手のひらの中で行方知れず
飛び散ったソースのぬかるみに
2、3残された足跡

焦りながら逃げるトナカイの喘ぎと
追うオオカミの猛り
戸外の森が切り刻んだ寒空
どんな息遣いでも厚い雪は吸い込んで
痕跡も嘆きも見事に消してしまう

腐葉土から染み出るように冷気は這いより
やがて失われる部屋の熱
壁に挟まった化石は乾いていく
いずれもまったく気付かないうちに

凝固した水を秘めて
あまりにも静か
この顛末を聞き届けるのは
部屋の主をおいて他にいないのに
おまえ どこへ行ったんだ
それとも何か持ち帰るだろうか
かたい寝癖に花びら付けて


自由詩 皿の上を留守にしている Copyright ゼロスケ 2009-11-19 03:14:32
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