明日の「ぼくら」へ
都志雄

一人の女がwaterという単語を知った時
女の暗い海には光があった

一人の数学者が荒地を切り開くとき
ヴィーナスと魔女たちは密かににらみ合った

一人の音楽家が夏の行方を探り打つとき
雷鳴は永劫の美を丘に轟かせた

ぼくらはただ信じ、賭け続ける
二色の狭間で。
灰は黄金に変わると
それはメッキではないと



少年の肩に老人がそっと腕を回すとき
砂漠には一片の雲が二人の髪を撫でるだろう

青年が登ってきた山道を振り返るとき
彼を未来へと押し出す風に気がつくだろう

船乗りたちが雲海の彼方の故郷を思うとき
やさしい手紙が彼らの髪を弾くだろう

ぼくらはただ祈り、歩き続ける
無数のコンパスが描く円の
重なる波紋の上を
溶けだし交わる温もりの中を



きみが春のそよ風に包まれるとき
ぼくの眼は淡い光で溢れるだろう

ぼくがきみとの新たな命を抱き上げる日に
またひとつ星が墜ちるのだろう

暁が海に溶けだすころ、
見飽きたはずの海面の煌きに
ぼくは驚愕する
そして隣で眠るきみが目を覚ますのを待ち
見果てぬ水平線めがけ二人で描く

短すぎた昨日の夢の続き
ぼくらの目いっぱい大きな円

コンパスの二本の軸足で、描く


自由詩 明日の「ぼくら」へ Copyright 都志雄 2009-11-15 20:21:45
notebook Home 戻る  過去 未来