卵とざくろ
梶谷あや子

一面に垂れこめる月から
頬笑んだ顔が落ちてきて
ここには
僕をつなぎとめるものなんかない
つぎの船を渡って
みんなみんな行ってしまうよ
指をからませながら
だけど母さん
僕に世界をくれたあとで
さようならと頬笑んだのに
どうしてまだ、ここにいたの


紅い実を落としてしまった
とても些細な不幸で
見果てぬ園
柔らかくふくらんだ
フェルミ、よびかける声が
遠のいてゆくね
いまここを飛び去るものに
あぁぼくも
重なろうとしているのは
もう戻らないから
今度はきっと
連れてゆけるように





自由詩 卵とざくろ Copyright 梶谷あや子 2009-11-14 11:18:46
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