「名」馬列伝(12) ビンゴカンタ
角田寿星

皐月賞馬だった4歳年長の叔父、ビンゴガルーを彷彿とさせる、小柄な馬体。
叔父のトレードマークでもあった、臙脂色に白のXマークの、勝負服とお揃いのカッコいいメンコ。
遠くからでも、ひと目で彼だとわかった。
パドックで首を弓なりに下げて、チャカチャカ落ち着かないのも、いつもの彼だった。
返し馬では惚れ惚れするようなキャンターで走り抜けていくのも、また彼だった。

クラシック戦線の準主役級として、古馬になってからは中距離重賞の常連として走り続けた。
2、3歳前半には、カミソリのような切れ味鋭い競馬をした。
古馬になってからは、ジリ脚と称されたが、それでも手堅く掲示板内に食い込んできた。
ファンに愛され、いつも上位人気を背負っていた。
そして、負け続けた。

2歳の条件戦をレコード勝ち。続くオープン平場を後方2頭めから一気の差し切り。
1200m芝を2馬身差勝ち。彼の素質の高さを証明する競馬だった。
そして、2歳11月のこのレースが、彼の最後の勝利となる。
それから3年9ヵ月の間、じつに20連敗。ついに重賞は勝てなかった。

皐月賞。1番人気だった朝日杯を6着と裏切った彼は、弥生賞もぱっとせず、10番人気。
不良馬場で泥んこになりながら、低評価を覆す差し脚をみせる。4着。
ダービー、府中の長い直線。馬群のなかから力強く抜け出した、彼の姿があった。
が、彼の前には、大胆な捲りで先頭に立った勝ち馬がすでにいた。
大外から重戦車のように追い込んできた栗毛の巨体馬にも差される。3着。
菊花賞。本命馬の三冠がかかったこのレース、彼は3番人気だった。
いつもより前めの中段待機。本命馬が3角手前で、常識外れのスパートをかける。
大外から追いかけるも、差をわずかに縮めるのみに終わった。3馬身差。2着。

強すぎる個性を持った、強すぎる馬と、クラシック戦線を走り続けた。
それからの彼は、時には本命を背負い、時には有力馬として、負け続けた。
大敗ならまだしも、次走に期待を抱かせるような脚はきっちり見せるので、始末に悪かった。
時には先行して直線少しだけ伸び、時には後方から直線少しだけ伸びた。
6歳になり、条件戦を走るようになっても、そのレース振りは変わることがなかった。

そして6歳の夏、新潟記念。差のない5番人気。
前走の七夕賞、関屋記念を5着、4着と手堅く収めた彼は、相変らず有力馬の一頭だった。
第3コーナーで骨折、競走中止。彼のレースはそこで終わってしまう。
叔父の時のような奇跡は起きなかった。
叔父は有馬記念で競走中止、予後不良級の骨折から奇跡の生還を成し遂げたのであったが。
2歳から6歳まで、ささやかながらも息長く、競馬史の一コマに彩りを添えていた名脇役。
そんな彼の最終舞台は、こうして幕を閉じた。


ビンゴカンタ   1980.4.5生  1986.8.24死亡
         26戦3勝
         菊花賞2着、東京優駿3着、皐月賞4着


散文(批評随筆小説等) 「名」馬列伝(12) ビンゴカンタ Copyright 角田寿星 2009-11-08 19:48:54
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