反射光
あぐり
いままでありがとう
と
おとうさんに言った真昼に
わたしの咽を埋めていた錠剤の苦さは
冬の海のように痛かった
泣かないで、いこうって
そう決めて勝手に決めて自分で決めて
眼を閉じて大きく息を吐き
おとうさんに電話した真昼に
どうしてもどうしても声は揺れて
あつい海が零れ続け 広がり 沁みては 浮かぶ
カーテンの隙間から差し込む日差しを
見上げながらうずくまっていた
びんを抱き締めて
それは冷たくきらきらと反射され
指先とともにきらきらと反射され
暗い瞳の中できらきらと反射され、
どうしてもどうしてもこれで良いのだと泣いては
わたしの傍にいない人を求めることで
もう終わりなのだと信じてた
おとうさんはわたしをかかえ
おかあさんはわたしのみじかいかみをなで
電話はずっと鳴り響き
しろいしろいシーツの色を
認識した頃には生きていた
産まれたときにわたしを包んだしろさは
きっと、もっと
なにもしらない色だったに違いない
赤いサイレンと
細い管と
ぜんぶぜんぶが どうしようもなく生きていた
いままでありがとう
と
おとうさんに言った真昼から
何枚も夜をめくって
カーテンから差し込む日差しがこんなにも眩しいから
いままでも これからも
ありがとう
と
ありがとう
と
ちゃんときこえているかなって
ねぇ、声に出せたら良いのに
飾り気のない文面で
「ありがとう」と
あの日にみた光の粒
きらきらと反射され
今日もまた
海は広がる
淡い青に薄く陽が差す