退院のための祈り
笠原 ちひろ

かみさま ほとけさま
ジーザス・クライスト

わたしは明日退院します。

あなたがたの名前を呼ぶからといって、
今までの人生の懺悔や反省をするつもりは毛頭なく、

わたしが幸せになることが、天にましますあなたがたにとっても幸せ、


…ですよね?


なんて、しゃあしゃあとそう思えるくらい、
この五ヶ月ですっかり図太くなりました。


と、いうわけで、
幸せめざし、
いまからいくつか
お願いを
並べたて、申したてまつります。




まず、丈夫でかわいい黄色い船をください。
わたしは回復なんてしたくない。
回復しないまま、つよくなりたい。
群青の海にポチリと黄色、揺れる大波に耐える船をください。



軽くやわらかい銀の靴をください。
わたしは幽閉されるのにはもうこりた。
かかとを鳴らせばどこへでも行ける、ドロシーみたいな靴をください。



びっしりと目のつまったざるをください。
サラサラ流れる渓流で、
えんえん砂金を探したい。
川底をさらう、ざるをください。



見つけたきらきら、いれるのに、勿論トランクも必要です。
上等なやつをひとつください。

あ、トランクはこぶりでいいです。

わたしはあんまりたくさんは持てない。

入りきらないものはあっさりと、捨てるいさぎよさを、ください。




かみさま ほとけさま
ジーザス・クライスト



ああどうかどうかワタクシが
焦って何者かになりたいなどと
ゆめゆめ思ってしまったりしませんように、

どうぞ、
じゃんじゃん導いてください。




わたしは道に迷いやすいので、


そこをふまえて、




よろしく頼む。





自由詩 退院のための祈り Copyright 笠原 ちひろ 2009-10-20 19:39:02
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