ニベアなひと
恋月 ぴの

新宿駅連絡通路できれいなひとに呼び止められた
朗らか過ぎる白い歯並びと
しなやか過ぎる姿勢の妖しさと

「あなたがあなたらしく生きているとき人は美しい」

白い歯並びからのぞく跳ねるような舌先
化粧品会社のコマーシャルに出ているおんなのひとのようだった

「あなたらしく」

って
「想像上のわたし」らしく生きたいと思ったことはあるけど
あくまでも「そうであって欲しいわたし」であって
たとえばコミュニティサイトのアバターみたいなものだし

わたしがわたしであることを肯定しない限り
わたしらしく生きられない気もして

青白い光の列を掻き分けモザイク通りに辿りつけば
そこには水耕栽培の赤いトマトが生っていた

そもそも「あなた」って「わたし」のこと?

黄昏のジャングルジムから逃れられないわたしだから
カラスが鳴いたとしても帰りようが無くて

熟れすぎた赤いトマトでも食しながら
サヨナラも言わずに逝ってしまったあのひとを偲ぶ


自由詩 ニベアなひと Copyright 恋月 ぴの 2009-10-19 22:23:56
notebook Home 戻る