詩想 —3
黒乃 桜

別に、ただ気になっていただけだ。
どうせまた明日から、同じような顔をして過ごす自分に嫌気が差して叫び出したくなるように。
変わらない自分を望んでいると言う割には、平穏なんか壊れてしまえと物騒な事を考えたりして。
残虐な事件をニュースで見る度に、馬鹿じゃないのか、と苦笑すると共にああきっと同じなんだと不意に落とされたり。
そうだ、この世界は加害者ばかりで構成されていて・・ほら、また人も巻き込もうとする。
そしてまた一人だ、と嗤ったりする。
だから今日もまた夜の街をただ宛てもなく徘徊したりして、
誰か罵るだろうか?そんなの知った事か!そういうフリをして。
肩がぶつかり金を出せよと言われれば、それはもう暇を潰すだけの事でしかなく。
暴れて、暴れて、暴れて、嫌悪の目で見つめられて。
何だよお前等もこうなりてぇのかよ、そんな目でにらみ返して。
そして不味いピアニッシモを・・・・、今日もそうなるはずだった。
だけど相手を殴ってやろうと振り上げた手を、不意に誰かに止められた。
殴ろうとした相手と、同じような顔で後ろを振り返ると、そこには先日の「死相が出てるよ〜」などと抜かした男が立っていた。
その男は、あっしまった、というような顔をして

「あー・・えー・・わたしにほんごわかりませーん」

そう言って、そのまま全力疾走したのだった・・。


『流音は本当に何でも良く出来るのね!』

そう、だから何も持ってなかったんだ。
だけれど欲しいと願えば願うほど、それは嫌悪の目で見下ろし
どんどん隅へと追いやられる。


「はあっ・・っはー走ったぁ」

何故か腕を掴まれたまま全力疾走され、一緒に走るハメになった由夜は
ぜぇぜぇ息をしている相手を、運動不足だな。ありゃ、なんてどうでも良い事を思いながら見ていた。
自分は別に運動不足じゃないから、平気だけど。

「・・あんた、何してんだよ」

はあぁ、と深い溜息を零して言った。
相手は未だに掴んだままだった腕を、ごめんね、と言いながら放して少し俯きがちになった。
まさかこんな形で会ってしまうとは、と思いながらも由夜は相手の顔を睨んだ。

「んー・・俺にもよく分かんないや・・。
お兄さんが止めて欲しそうな顔してたから?とか?」

いやぁ不思議だねぇ、と相手は笑い飛ばす。
しかし由夜が、俺が止めて欲しいだと?、と凄い形相で睨んだため相手は、デスヨネ。すみません、と苦笑を浮かべた。

「・・何でだろうね・・。まあ、俺のたまーに発揮される気まぐれだと思うから
何かほんとにごめんねー」

顔の前で両手を合わせて、ごめんッ!、と謝ってくる相手。
由夜は、何だかなー、と思いながらもまた溜息を零した。

「・・別にいーけど。」

本当はどうでも良いんだし。
相手は、本当に?よかったぁぁぁ、と心底ホッとしたような表情で笑った。
何でそんなに笑えるのか、正直分からなかった。
ただ、それだけの事、なのに。

「あっ!俺ね、流音ってゆーの。」

思い出したように相手は自分の顔を指さしてそう言った。
はあ?、となる。もちろんそうなる。
由夜が不思議そうな顔をしていると相手はくすくす笑って、名前、と言った。
暫くぽかんとなったが、変な奴、と口の中で転がしてそのまま、噛み砕いて胃に流し込んだのだった。


散文(批評随筆小説等) 詩想 —3 Copyright 黒乃 桜 2009-10-17 16:21:57
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