覗き見る月
千月 話子
夜の始まりの冷めた月から
白い涙が零れ落ちるように
白鷺が降下する
静かな寝息を立てて眠る彼女は
広いベッドの左側で三日月になる
睡眠不足の瞼はぎゅっと閉じられて
月明かりに照らされた
身動き一つしない体が
大理石のように美しいと感じる
空けられた左側の乳白色のシーツには
より一つなく
凪のように滑らかなそこに浸ってみたくなる
尻からそっと沈んで
さざ波のようにゆっくりと
水面を泳ぎ
彼女と同じ三日月に擬態してみる
寄り添った私達に月明かりは無く
窓際のそれに憎憎しく言ってみた
「崇高な月よ 嫉妬なんかするな」
対岸で鳴る激しいサイレンの音が
大火事を予想させても
ここには穏やかな自分が居る
興味は彼女の首筋にあり
そこから匂う整髪料の香りを感じながら
翼の名残へ二つの胸を押し当ててみた
男と女の間を飛び交う蝶の夢でも見ればいい
心の中で苦笑する
彼女の薄く開けられた唇から
くすくす と笑いが漏れたような気がした
甘ったるい夢の外で
赤く燃える月が
煙のような雲に飲み込まれ
消失した
身体が眠りを欲しがって
薄い布の中で
私達も燃えていた
通りがかった灰色の飼い猫が
薄緑の瞳をきらきらさせて
私達の放り出された足先を
じぃと見ていた
もしかして それは
月・・・かも・・・知れない・・・
曖昧な覚醒が 錯覚を起こす