Born To Win [People]
プテラノドン

昨日の夜中も、
お前らみてえなガキが騒いでっから寝不足で
仕事休んじまったんだよ。と、
だから今日は、
日当分稼がねえと帰れねえんだよ。と、
錦糸町の場外馬券場で馬鹿騒ぎしていた僕らは、
タクシーの運転手に説教を食らった。彼は最後に、
「お前らが日本を背負っていくんだからよ」と言って
メインレースで手に入れたおよそ日当以上の大金から
五千円札を一枚抜き取って、ご祝儀と称して僕らにくれた。
「日本背負うんだったらこんな所で昼間っから酒飲んでないよ」
友人はふてぶてしく笑った。その時僕は、
年下の従兄から聞いた高校時代の話を思い出していた。
そいつがいた野球部が試合となると、相手校のデータを
ノートに書き留め持ってきてくれるおっさんの話を。

「そのおっさんのデータかなり当たるとですよ」
高校最後の夏の地区予選、相手校には
従兄弟のケンと別々の高校で野球をしていた幼馴染がいて、
勿論おっさんのノートにはそいつの事も書かれていた。
ー守備もバッティングも下手くそ。
ケンは試合前に笑いながら友人にノートを見せた。
「お前、おっさんのこと、ぎゃん言わせんと」
けれど友人はデータ通りの結果を残した。その幼馴染と
この前、ケンが地元の地方競馬場へ行った時に
数年振りにおじさんに会ったという。
「おっさんの予想した馬、全部駄目でしたよ」とケンは言った。
そしておそらく、お前らが時が経つ事の素晴らしさや、
その類いの希な感傷に浸りながら ぼんやりと
テレビ画面を眺めていた時に俺らは、液晶画面に向かって
「安藤!安藤!」と、ちょうどクラクションを鳴らすみたいに
吠えたてるタクシー運転手のおっさんと一緒になって
「シンゴ!シンゴ!」と、説教されたことを無視して
そこらの怒声をかき消すように見当違いに叫んでいたはずで。
お前らが競馬場の近くの居酒屋で、高校のOBで結成された
草野球チームにおっさんを招き入れようとしていた時、
市民球場での再会を約束した時に、
俺らはおっさんから貰ったご祝儀をきっちり使っちまおうと
上野のガード下であえぐように酒を呑みながら
背負うべきものが何なのか考えていた。
 帰り道、終電近くの満員電車の中、どうにかこうにか
座席についたところで友人は言った。
「鋪道の縁石の上を歩いていたじいさんの事、覚えてる?」
15年前、高校の時だ、バイクで事故った友人を見舞いに
病院へ向かう途中、僕らは縁石の上を歩いていた老人が
蹴躓いたのを見てゲラゲラ笑っていた。「覚えているよ。」
あれよ、時々思い出すんだわ。笑っちゃいけなかったよな。

それから僕らは、近くで吊り革につかまって立っていた
老夫婦に席を譲った。背負おうとしたのかもしれない。
わずかな時間であれ、忘れないのなら。離すつもりがないのなら。



自由詩 Born To Win [People] Copyright プテラノドン 2009-09-30 17:57:42
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